中央アジア今昔映画祭

東アジアと西のイスラーム・西欧世界の交点にあった中央アジアは、テュルク系遊牧集団による征服やイスラーム化といった歴史を経て、複雑に文化が交わる場所として長い道のりを歩んできた。20世紀は長くソビエト連邦の支配下にあって社会主義体制をとってきたが、1991年のソ連崩壊と前後して5カ国が独立国となり、以後、国際社会での存在感を増している。
古くから“多様性のるつぼ”として存在し、社会主義体制の導入と崩壊によってさらに大きな変化を遂げた中央アジア。独立から30年という節目を迎え、その唯一無二の道のりと変幻自在の世界観を映画で追っていく。

1968年／ソ連／カザフ語、ロシア語／カラー／88分／原題：Angel v tyubeteyke
監督・脚本：シャケン・アイマノフ　脚本：ヤコフ・ジスキント
出演：アミナ・ウルムザコワ、アリムガズィ・ラインベコフ、ビビグリ・トゥレゲノワ

カザフ映画の父と称されるＳ・アイマノフの代表作の1本。中央アジアの風景とソビエト建築が並ぶ大都市アルマティを舞台にした、貴重な中央アジア製ミュージカル。当時のファッションやダンス・ミュージックも見どころ。
地理の教師テイラクは、親切で思いやりがあり、常に伝統的な帽子テュベテイカを手放さないことから、皆に「テュベテイカの天使」と呼ばれている。ある日、母親が彼に会いに田舎からアルマティにやって来る。コスモポリタンな大都会に圧倒されつつも、彼女は息子の花嫁を探すために大胆な行動を開始するが…。

1969年／ソ連／ロシア語、キルギス語／モノクロ+カラー／78分
原題：Dzhamillya／監督：イリーナ・ポプラフスカヤ／脚本：チンギス・アイトマートフ
出演：ナタリヤ・アリンバサロワ、スイメンクル・チョクモロフ、ナレーション：チンギス・アイトマートフ

原作はキルギスの世界的文豪・アイトマートフの「この星でいちばん美しい愛の物語」。雄大な自然を背景に、迫力の乗馬シーンや野心的な演出を随所に盛り込んだメロドラマ。「キルギスの奇跡」と呼ばれる黄金時代の幕開けを予告する1本。
出征した夫を待つジャミリャーは、夫の弟である少年セイトたちと暮らしている。彼女のことが大好きなセイトは､男達が近づくと割って入り邪魔をする。彼女は悲しみと孤独に苦悩しつつも明るく振舞っていたが、村に負傷兵ダニヤルが現れ、心が揺れはじめる。やがて二人の魂は結びついていき…。

※現存するマスター素材が劣化しており、映像・音声にノイズ等が見られます。あらかじめご了承いただきますよう、お願い致します。

1991年／ソ連／ロシア語、タジク語／モノクロ／98分／作品提供：ユーロスペース
原題：Bratan／監督・脚本：バフティヤル・フドイナザーロフ／脚本：レオニード・マフカモフ
出演：ティムール・トゥルスノフ、フィルス・サブザリエフ、ナビ・ベクムラドフ

中央アジアの大平原を機関車で行く兄弟の珍道中。ユーモラスな詩情にあふれたレール・ロードムービの最高傑作。タジキスタンが誇る巨匠、バフティヤル・フドイナザーロフ（『ルナ・パパ』）のデビュー作。
仲間と悪さをして過ごす17歳のファルーと、土を食べる癖を持つ7歳のアザマットの兄弟は、祖母と3人暮らし。兄弟はある日、遠くに住む父親に会うため機関車に乗って旅に出る。トラックとの競争や、ポットをたくさん持った変なおじさんの出現、悪ガキの襲撃などなど、機関車はハプニングに遭遇しながらもガタゴトと走っていく。

1996年／トルクメニスタン、ロシア／ロシア語、トルクメン語／カラー／121分
原題：The Night of the Yellow Bull / The Children of the Earthquake
監督：ムラド・アリエフ／脚本：ブラート・マンスーロフ、アシルムラド・マミリエフ
出演：マクサト・ポラトフ、アクゴゼル・ヌリィエワ、タチマメド・マメドヴェリエフ

カンヌ国際映画祭のコンペ候補となるも、本国トルクメニスタンで上映禁止処分を受け、お蔵入りとなった幻の傑作。首都アシガバートの人口3分の2が犠牲になった1948年の地震とその時代を回想した、壮大な愛の群像劇。
少年セルダルは優しい母や兄弟と幸せに暮らしている。音楽の才あるヌリィや家族同然のアルダルなど友達にも恵まれ、学校で問題が起きれば、人格者のチャパイ校長が上手く取りなしてくれる。だが時はスターリン政権下。ある日、不穏分子として睨まれていた祖父が当局に連行され、皆の尊敬を集めるペルマノフも目をつけられる。そして、運命の時が迫る…。

※現存するマスター素材が劣化しており、映像・音声にノイズ等が見られます。あらかじめご了承いただきますよう、お願い致します。

2012年／ロシア、ベルギー、フランス、カザフスタン、ドイツ、タジキスタン／ロシア語／カラー／110分
原題：Waiting for the sea
監督：バフティヤル・フドイナザーロフ/脚本：セルゲイ・アシケナージ
出演：エゴール・ベロエフ、アナスタシア ・ミクリチナ、デトレフ・ブック

2015年に急逝したフドイナザーロフの遺作。半世紀で10分の1にまで干上がってしまった、カザフスタンとウズベキスタンにまたがる大湖・アラル海を舞台に、彼の中央アジア人としての思いが投影された壮大な夢の物語。
船長のマラットはアラル海を航海中に大嵐に遭遇し、妻や仲間を失い、一人生き残った。心に傷を負った彼はある決意を胸に、今では干上がってしまった海に戻り、荒野に佇む自分の船と対面する。そして船を引きずって水のない海を横断する無謀な旅に出る。贖罪を求め彷徨うマラットはどこに行き着くのか。

2014年／ウズベキスタン、オランダ、ドイツ、フランス／タジク語、アラビア語／カラー／88分
原題：40 Days of Silence
監督・脚本：サオダート・イスマイロワ/脚本：ウルグベク・サディコフ
出演：ルシャナ・サディコワ、バロハド・シャクロワ、サオダート・ラフミノワ

中央アジアで人生の節目に行われる儀式、40日間の沈黙の誓いを通して描かれる、伝統と今、幻想と現実が交錯する世界。ウズベキスタンの気鋭の映像作家が美しく瞑想的な映像で紡ぐ、女性達の内なる闘いの物語。
山奥の孤立した村。ビビチャは「沈黙の誓い」を立てるため祖母の家に身を寄せる。家には叔母の幼い娘が同居しており、街からは叔母が出戻ってくる。そうして葛藤を抱えた四世代の女性が一つ屋根の下に住むことに。過去に縛られ、今は恐怖や疑いに苦悩するビビチャ。彼女は沈黙の旅の末に何を見つけるのか。

2020年／ウズベキスタン／モノクロ+カラー／15分
原題：Her Right／監督：サオダート・イスマイロワ

1920年代から1980年代にかけてウズベキスタンで撮影された映画に映る女性たちをコラージュして作成された短編作品。スターリン政権下の同国で新しい労働力を生み出すために行われた女性解放運動「フジュム」を中心に構成された、イスラーム教徒の女性の歴史を見つめる15分。※『40日間の沈黙』と同時上映。

2018年／ロシア、ドイツ、ポーランド、カザフスタン、中国、フランス／ロシア語、キルギス語／カラー／114分
原題：Ayka
監督・脚本：セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ　脚本：ゲンナージイ・オストロフスキー
出演：サマル・エスリャモワ、ジィパルグリ・アブディラエワ、セルゲイ・マズル

第71回カンヌ国際映画祭女優賞受賞作。手持ちカメラの臨場感あふれる映像で描かれる、一人の女性の厳しい現実。2000年代以降にロシアで急増した中央アジア移民労働者の実態をリアルに映し出した緊迫のドラマ。
25歳のキルギス人女性アイカは、モスクワの病院で出産するが、生まれたばかりの子供を残して病院から姿を消す。借金を抱える彼女は職を得ようとするが、ロシアでの労働許可の期限は既に切れており、まともな仕事に就くことができない。やがて、借金取りに返済を迫られた彼女は、ある決断をする。

2019年／デンマーク、フランス、ルクセンブルク、アフガニスタン／ダリー語、ロシア語、ヒンディー語、ウルドゥー語／カラー／90分
原題：The Orphanage／監督・脚本：シャフルバヌ・サダト
出演：クドラトラ・カディリ、セディカ・ラスリ、マシフラ・フェラージ

思春期の少年達の群像劇を通して、今に続くアフガニスタンの諸問題が見える。少年の感情を表現するインド映画を踏襲したミュージカルシーンや、タジキスタンなど周辺国の文化要素が入ったシーンなど、アジアの交差点の特色が映える。
1989年、軍事介入をしていたソ連軍が撤退し街は混乱の最中にあるが、映画館は賑わっている。インド映画が大好きで、学校にも行かずダフ屋をしていたクドラットは、捕まって孤児院に入れられる。そこには不良もいるが、理解ある教師がいて、親友もでき、ロシア旅行にも行ける。そんなある日、思いがけない事故が起こり…。