武蔵野~江戸の循環農業が息づく~
2018年/日本/111分/BD/配給:映画「武蔵野」製作委員会
監督・撮影・編集:原村政樹
プロデューサー:鈴木(神出)敏夫
音楽:鈴木光男/演奏:gaQdan 鈴木光男
語り:小林綾子
舞台挨拶
初日6/23(土)10:00回上映後、原村政樹監督の舞台挨拶がございます!
「日本農業遺産」の農村の輝きを、映像美と共に伝えるドキュメンタリー
武蔵野の俤は今わずかに入間郡に残れり。なかば黄いろくなかば緑な林の中に歩いてゐると、澄みわたつた大空が梢々の隙間からのぞかれて日の光は風に動く葉末葉末に砕け、その美しさいひつくされず。(国木田独歩著「武蔵野」より)
どんなに時代が変わっても、変えてはならないものがある
江戸時代から360年以上に亘って継承されてきた循環農業が今も息づく埼玉県川越市・三芳町・所沢市などには、世界でも他に例のない大都市近郊の平地林が残っています。大都市周辺でこのような場所は世界でも唯一、ここにしか残っていないと専門家が指摘しています。
ひとたび足を踏み入れれば、まるで高度経済成長以前の村にタイムスリップしたかのような錯覚に陥ります。江戸時代、それまで不毛の大地であったこの地に、農家が木を植え、森を育みながら、森の恵みを活かして農業を続けてきました。長年、落ち葉を集めて堆肥を作ることで不毛な土地を豊かな農地に変えていきました。15年から20年周期で木を伐採し、薪や家の建材としました。伐採した木の切り株からは新たな芽が出て、それが再び樹木として再生し、森は若返りを繰り返しました。それから360年、今も農家は先祖が残してくれた貴重な森を大切に守りながら作物を育てているのです。
この地の農家は貴重な雑木林を「ヤマ」と呼んでいます。「ヤマは暮らしに必要なものを分け与ええてくれる。ヤマがあるからこそ、人は生きていける」と誇らしげに語ります。人間の暮らしばかりではなく、植物や動物、昆虫など、すべての生き物の命を「ヤマ」が支えています。「ヤマ」の土には無数の微生物が生息し、微生物の働きによって生命に欠かせない栄養素が供給されています。「ヤマ」は命の源なのです。
そんな貴重な「ヤマ」が徐々に失われつつあります。東京という大都市近郊であり、高度経済成長以後、開発の波が押し寄せ、「ヤマ」は産業廃棄物処理場や倉庫などに転用されています。このままのスピードで開発が進めば、あと50年で「ヤマ」は消滅するかもしれない、とも言われています。
そんな中、「ヤマ」の価値を見直し、「ヤマ」を守ろうと立ち上がった市民が、農家と手を結んで活動を始めました。荒れた「ヤマ」の再生を目指して、老朽化した樹木を伐採するボランティアの人たちが農家と手を携え、活動しています。木工作家たちもこの地の森の木を活かして家具や調度を製作しています。全世界の土の調査をしてきた土壌学者が初めて調査に入り、今まで見たこともない優れた土の姿も明らかにしました。
後継者難に苦しむ日本の農業の現実とは正反対に、この地では大勢の20代、30代の若い後継者が意欲的に江戸の伝統農法を継承しています。ここは日本でも稀にみる後継者の多い村です。若者たちは「親父が楽しそうに農業をしている姿を見て育ったことが、自然と家の農業の後継ぎになった」と、口をそろえて話します。若い後継者らしく、伝統を受け継ぐだけでなく、未来を展望しながら新しい農業にも挑戦しています。父親と母親、そして息子夫婦が一緒に畑で働き、常に笑顔が絶えない家族の様子を見ていると、とてもうらやましくなります。何事も激変する現代社会にあって、この地の農家の人たちは時代に対応しつつも、変えてはならに貴重な「農の文化」を、しなやかに守り続けてきたのです。それは日本だけでなく、世界中の人々にとっても、人類の遺生きた遺産として、後世に残したい宝物だと思えてなりません。
長年、農業をライフワークにドキュメンタリー映画を創り続けてきた私にとっても、これほど若い農業後継者が育っている農村は他に知りません。人間のいのちの根底を支える食べ物を育てる農業の未来は、この地で受け継がれてきた江戸の循環農業にヒントが隠されていると思えます。それは人が暮らす地域の自然環境を大切に守り育てる営みがあるからです。
この映画で伝えたいことは、単に農業のことだけではありません。家族とは、仕事とは、地域とは、そして私たちを取り巻く自然環境とは、といったことを改めて考え直すきっかけとなるような映画です。ややもすれば殺伐とした現代社会に生きる私たちが人間らしさを取り戻したいとの願いを込めました。(原村政樹監督)
上映日時
6/23(土)~7/6(金) |
10:00~12:00 |
料金
一般 | 大学・専門・シニア | 高校以下 | |
通常 | ¥1600 | ¥1200 | ¥800 |
会員 | ¥1300 | ¥1200 | ¥800 |