メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章

メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章
11/29(土)-12/12(金)
メーサーロシュ・マールタ監督特集 第2章
11/29(土)-12/12(金)
“東欧の奇跡”メーサーロシュ・マールタ
代表作『日記』三部作の全貌がついに明らかに
青春、家族、恋愛、冷戦……個人的な記憶と戦後ハンガリーの歴史が交錯した、
深遠なる記録の数々。
1975年、『アダプション/ある母と娘の記録』で、女性監督として初めてベルリン国際映画祭の最高賞を受賞したメーサーロシュ・マールタ。2023年、同作を含む5作品が日本でもようやく公開された。
今回の特集では、メーサーロシュの代表連作「日記」三部作を含む7作品を新たにラインナップ。孤児として育った女性が両親を追い求めるデビュー作『エルジ』、中年の危機に瀕した未亡人の息苦しさをシスターフッド的に描破した『月が沈むとき』、階級格差が男女の結び付きを蝕む『リダンス』など、初期作品には「家族」の有り様を洞察するメーサーロシュの作家性が光る。アンナ・カリーナを共演に迎えた中期の傑作『ジャスト・ライク・アット・ホーム』では、血の繋がらない男と少女の、親子のような親密さにカメラが向けられ、やはりここでも「家族」の形が問い直される。
そして「日記」三部作には、冷戦下の恐怖政治を生き抜いた、メーサーロシュ自身の記憶が刻まれている。軍靴が耳をつんざくなか、生き別れた両親への思いがこだまするパーソナルな一大叙事詩が、ついにその全貌を現す。
メーサロシュ・マールタ
1931年、ハンガリー生まれ。同国を代表する名匠ヤンチョー・ミクローシュの手引きで、長編劇映画デビュー作となる『エルジ』を監督。当時ヤンチョーとは配偶関係にあり、彼の息子ヤンチョー・ニカはその後、「日記」三部作の撮影監督を務めることになる。
監督作には、サボー・ラースロー(ラズロ・サボ)やアンナ・カリーナ、イザベル・ユペール、デルフィーヌ・セリッグなどの名優がこぞって出演し、アニエス・ヴァルダに至っては自身の映画制作の参考にするなど、その影響は計り知れない。
公式ホームページhttps://meszarosmarta-feature.com/
配給 東映ビデオ
後援 駐日ハンガリー大使館、リスト・ハンガリー文化センター
© National Film Institute Hungary – Film Archive
入場料 一般1900円/会員・大専・シニア1300円/高校生以下800円
作品紹介
エルジ

1968年/ハンガリー/84分/スタンダード/モノクロ/HDデジタルリマスター
英題:The Girl
原題:Eltávozott nap
脚本:メーサーロシュ・マールタ
撮影:ソムロー・タマーシュ
出演:コヴァーチュ・カティ
字幕翻訳:森彩子
字幕監修:コロンツァイ・バーバラ
児童養護施設で育ったエルジは、24年ぶりに小村で暮らす実の母を訪ねる。再婚していた母は、娘の来訪に戸惑い、彼女を姪と偽って新しい家族に引き合わせた。家族関係の修復も曖昧なまま街へ戻ったエルジは、行きずりの男と交際しながら、鬱々と日々を過ごす。ある日、素性の知れぬ中年男性がエルジの前に現れ、「君の両親は死んだ」と告げる。長編デビュー作であり、のちに繰り返し描かれる“養子”をテーマとした自伝的作品。
月が沈むとき

1968年/ハンガリー/86分/シネマスコープ/モノクロ/2Kレストア
英題:Binding Sentiments
原題:Holdudvar
脚本:メーサーロシュ・マールタ
撮影:ケンデ・ヤーノシュ
出演:トゥルーチク・マリ、コヴァーチュ・カティ、バラージョヴィチ・ラヨシュ
字幕翻訳:森彩子
字幕監修:コロンツァイ・バーバラ
政治家の夫に先立たれたエディトは、保険金や邸宅の相続を頑なに拒む。父の名声が汚されることを恐れた息子は、母エディトを別荘に軟禁した。息子の婚約者も「看守」として手を貸すが、壊れていくエディトを見るうち、結婚という結び付きに違和感を募らせていく。「家」に囚われた女性の苦しみと、彼女に寄り添う女性の交流が描かれたシスターフッド映画。
リダンス

1973年/ハンガリー/81分/スタンダード/モノクロ/4Kレストア
英題:Riddance
原題:Szabad lélegzet
脚本:メーサーロシュ・マールタ
撮影:コルタイ・ラヨシュ
出演:クートヴェルジ・エルジェーベトゥ
字幕翻訳:高橋文子
字幕監修:コロンツァイ・バーバラ
工場勤務のユトゥカは、ダンスパーティーで出会った大学生アンドラーシュと恋に落ちる。彼に拒絶されることを恐れたユトゥカは、自分も学生であることを装い、名前も偽る。やがてアンドラーシュはユトゥカの素性を知るが、両親には真実を告げられずにいる。両家合同の食事会。アンドラーシュ家の階級意識が剥き出しになっていく。
アニエス・ヴァルダがそのシャワーシーンに強く魅了されたという、労働者階級とインテリの格差を背景に女性の選択を描く静かな力作。撮影はジュゼッペ・トルナトーレ作品で知られるコルタイ・ラヨシュ。
ジャスト・ライク・アット・ホーム

1978年/ハンガリー/109分/ビスタ/カラー/4Kレストア
英題:Just Like at Home
原題:Olyan, mint otthon
脚本:コーローディ・イルディコー
撮影:コルタイ・ラヨシュ
出演:ヤン・ノヴィツキ、ツィンコーツィ・ジュジャ、アンナ・カリーナ、サボー・ラースロー(ラズロ・サボ)
字幕翻訳:高橋文子
字幕監修:コロンツァイ・バーバラ
アメリカからハンガリーへ帰国したアンドラーシュ。根無し草状態の彼は、放し飼いにされていた犬に惚れ込み、飼い主の少女から強引に買い取った。わだかまりを残したふたりは、やがて親子とも言い切れぬ親密な関係を育んでいく。アンドラーシュのかつての恋人アンナも、そんなふたりを気に掛けている。彼女はアンドラーシュに、愛を告白するが……。
父への献辞で始まる本作は、メーサーロシュにとって非常に個人的な父との物語だといえる。アンナ・カリーナがふたりの関係に揺らぎを与える人物を好演。
日記 子供たちへ

1980-83年/ハンガリー/108分/スタンダード/モノクロ/4Kレストア
英題:Diary for My Children
原題:Napló gyermekeimnek
脚本:メーサーロシュ・マールタ
撮影:ヤンチョー・ニカ
出演:ツィンコーツィ・ジュジャ、ヤン・ノヴィツキ
字幕翻訳:森彩子
字幕監修:コロンツァイ・バーバラ、秋山晋吾
1947年、ソ連からハンガリーへ帰国したユリは、共産党員の養母マグダの保護下で育つ。父は秘密警察に捕らわれ、母はこの世を去っていた。恐怖政治が布かれるこの国で、ユリは不安定な生活を強いられる。ある日、ユリはヤーノシュと名乗る男と出会う。彼は父と瓜二つの人物だった。
「日記」三部作の第一部。冷戦下の自身の苦難を描き、1984年のカンヌで審査員グランプリを受賞。撮影は義理の息子ヤンチョー・ニカが担当した。
日記 愛する人たちへ

1987年/ハンガリー/132分/スタンダード/カラー・モノクロ/2Kレストア
英題:Diary for My Loves
原題:Napló szerelmeimnek
脚本:メーサーロシュ・マールタ、パタキ・エーヴァ
撮影:ヤンチョー・ニカ
出演:ツィンコーツィ・ジュジャ、ヤン・ノヴィツキ
字幕翻訳:森彩子
字幕監修:コロンツァイ・バーバラ、秋山晋吾
マグダの元を離れたユリは、織物工場で働いている。映画監督を志すユリは、モスクワの大学で映画制作を学ぶことになった。スターリンの死後、ユリは卒業制作として、労働者の実情を捉えたドキュメンタリー映画を完成させたものの、反-社会主義リアリズム的な内容から、再編集を命じられた。そしてユリは父がすでに死去したことを知らされる。
「日記」三部作の第二部で1987年のベルリンで銀熊賞を受賞。モスクワ留学から1956年のハンガリー事件前夜までを描く。ユリが父と瓜二つの男に抱く愛情は複雑になり、ふたりの関係は次第にメロドラマ性を帯び始めていく。
日記 父と母へ

1990年/ハンガリー/117分/スタンダード/カラー・モノクロ/2Kレストア
英題:Diary for My Father and Mother
原題:Napló apámnak, anyámnak
脚本:メーサーロシュ・マールタ、パタキ・エーヴァ
撮影:ヤンチョー・ニカ
出演:ツィンコーツィ・ジュジャ、ヤン・ノヴィツキ、トゥルーチク・マリ
字幕翻訳:森彩子
字幕監修:コロンツァイ・バーバラ、秋山晋吾
1956年10月23日、ブダペシュトで民衆が蜂起する。モスクワで足止めを食っていたユリは、12月に入りようやくハンガリーへの帰国を許された。ユリはカメラを手に、荒廃した街並みや犠牲者を見つめていく。その年の大晦日、ユリたちは一堂に会する。政治的立場を異にする者たちも、仮装や音楽、ダンスに耽る。しかし反動分子の弾圧はとどまるところを知らず……。
「日記」三部作の最終作。1956年のハンガリー事件から民主化運動の挫折までを描き、戦争の余波と闘いの行方を問う。